「何で定休日に、雑草むしりなんだよ。」 「まぁまぁ、そんなこと言わないでっ お礼にレモネード作るから。」 * * * * 「あ゛ー暑い、何でこんな暑い日に 外で草むしりなんだよ!」 その場にはいないゼフィルスに向かって文句を言いながら 誰もいない広い裏庭で一人、ポツンと座りこむ。 (まぁ、レモネード一杯に丸みこまれるオイラもオイラなんだけど…) なんて、思いながらも やっぱり納得できず。 腹いせに雑草をブチイ、ブチィイイ と乱暴にむしる。 店の開けっ放しにされた窓から、冷房のきいた涼しい風が やけに恋しくなる。 そもそも…どうして、オイラがこんな事しているかと言うと、ことの発端は 数時間ほど前の事だ。 昨日のバイトに入っていた時に、店長のゼフィルスから「明日。夕方からでいいから入ってくれるかな?」 なんて、頼まれたから 「明日は、定休日なんじゃねぇの?」 と聞き返すと 「大事な用事があるんだ、だから、手伝って?」と返された。 正直、面倒くさかったけど『大事な用事』と言われたら断りにくかっから…渋々、今日来る事を約束したんだ。 それなのに、いざ店に入ってみると ゼフィルスから手渡されたのは大きな麦藁帽子と、白い軍手。 それと、土を掘るために用いられるスコップ。え、なんだよコレ? 「なんだ…コレ?」 「なんだって…麦藁帽子と、軍手と、スコップだよ?」 「や、そうじゃなくって…」 「あ、そろそろ買出しに行かないと…新鮮なオレンジが売り切れちゃうっ」 店の時計を見るや否や、ゼフィルスは バタバタと仕度して「それじゃあ、行って来るね。雑草むしり頼んだよっ」 なんて言って、扉に手をかけもんだから、慌ててその背中に声をかけた。 「何で定休日に、雑草むしりなんだよ。」 「まぁまぁ、そんなこと言わないでっ お礼にレモネード作るから。」 そう言い終えると ゼフィルスは 早足で店の外に出た。 彼がバタンと乱暴に 扉を閉めたせいなのか、扉についた鈴の音がチリンチリンがいつも以上に やかましく鳴っている。 一人、鈴の音が残る店内に残されたオイラは、ただ口をあんぐりと空けているだけ。 まさか、大事な用事って雑草むしり?こんなのって有りかよ! 思えば、あの時扉の前で ボーっと突っ立っていないで、走ってゼフィルスを追っかけていれば良かった、と、今更ながら後悔した。 「それにしても、えらく広い庭だな…。」 改めて まわりを見ると ミントの葉っぱとか、ラベンダーの花。 よく分からない 花やらの花壇がそこ等じゅうにある。 アイツはこれを一人で世話してるのか…なんて思うと少しだけ気の毒に思えてきた。(まあ、好きでやってるんだろうけどな。) 一通り(といっても、適当だけど)雑草をむしり終わったオイラは、涼しい風が漂う店内に 誘いこまれるように足を進めた。 やっぱり、夏の冷房のきいた部屋は最高だよな。ってあれ? カウンターの方を見ると見慣れない女の子が、イスにちょこんと足をぶらぶらさせて座ってる。 さっきまで店の中は空っぽだったし、いつのまに入ったんだろう… そんなことを考えてたらこちらに気がついた女の子が、くるりと体を向け「あ、ばいとくん、だ!」と言って近づいてきた。 そうか、この子 この間会った空千代って子だ。 思い出し、ふとその時の光景が頭を横切る。先週ぐらいだったかな? あの時もこのぐらいの時間帯に来ていたっけ。そうそう、初対面だからって ゼフィルスが「バイトの子だよ」って紹介したから、てっきり名前だと勘違いされて 「ばいとくん」って呼ばれてるんだ… 何回かちゃんとした名前を教えたんだけど、余程あの呼び方が気に入ったのか、なかなか覚えてくれないんだよな。 「千代、だよな? 今日は定休日なんだけど 何か用事か?」 「うーうん、違う、よ。さっきすぐそこでぜふぃ、くんに会っ、てお留守番たのまれた、の!」「あ、と コレ!」 「ん、?」 手にひんやりとした感触がしたから、視線を下に落とすと 冷たいレモネードが一つ 千代からオイラに手渡されていた。 「あれ、どうしたんだこれ?」 「ばいと、くんにあげて、って 頼まれたの。千代が作った、んだよ。」 飲んで、飲んで。とでも言ってるように、千代はオイラの顔をじっと見つめてくる。 その行動が可笑しくて、少しだけ笑うと 手にあるレモネードを一気に飲み干した。 ゼフィルスが作るのと違って…ちょっとだけ酸っぱかったんだけど 千代が感想を求めてたから「おいしいぜ」って、言ったら、千代は嬉しそうに 尻尾をぱたりぱたりと動かした。 尾の先端についてる、鈴がちりんと涼しげに音を鳴らす。
いつもと違う、れもねーど。
「レモネードのお礼に、面白い事 教えてやるよ!」「え、なにな、に?」 「店長…、ゼフィルスを驚かそうぜ。」「ぜふぃ、くん?」 「おう!、かくれんぼだよ、かくれんぼっ」「わ、ーい 千代、かくれんぼ好、き!」 |