ピピピピッ―― 
静まり返った室内には、温度を計り終えた体温計の音が忙しく鳴り響く。

つい、先ほどまで夢の淵を彷徨っていたゼフィルスは
体温計を自分の脇から取り出し、朦朧とした意識の中で体温計の示した温度を確かめた。
それと同時に、大きな溜息を吐いた。

「37℃4分…、微熱か…。」

困ったなあと、眉間に少し皺を寄せながら 熱で気だるい身体をベットから起こす。

「せっかく、龍と会う約束していたのに…。」

龍に断りの電話を入れようと、覚束ない足取りで部屋から出たが
ボタンを押す指が中々動かない。

やっとのことで、番号を押し終えたゼフィスルは
小さな椅子に腰をかけ、相手に繋がる時間をやり過ごす。

何度目かのコールで電話の向こう側から龍の声がする。

「もしもし…龍?」
『もしもし?俺だけど、ゼフィルスどうしたの?』

電話から聞こえる声は、普段どうりの龍の声。
その声に、今から言う事があまりにも申し訳なく感じ ゼフィルスは僅かに目線を 下へと落とす。

「あ、あのね…今日のことなんだけど、僕風邪引いちゃったみたいなんだ、だから――」
だから、今日は会えそうにないんだ、ごめんね?
ゼフィルスがそう紡ぐ言葉を口に出そうとしたが、それは龍の声によって遮られる。

『…風邪?!、今からそっちに行くから、待っていて。』
「え。今からって…、もしもし?ねぇ龍?」
受話器からはそれっきり龍の声は聞こえず、変わりに無機質な機械音が聞こえるだけだ。

数分も経たない内に、荒々しく店のドアが開かれた。
普段はチリンと可愛らしい音を奏で、来客を知らせる鈴だが
今日は何度も左右に揺れて静かな店内に忙しく鳴り響く。

ドアの先には、肩を上下に揺らし息を整えている龍がいた。

「龍、どうしたの?そんなに息切らせて…。」
「どうしたって…ゼフィルスが風邪引いたって言うから、急いできたんだよ」
「そんなに慌てなくても、僕は大丈夫だよ?」

肩をすくめて、ほら、何でもないから。とでも言うように小さく笑うゼフィルスの額に ひやりと冷たい感覚が走る。
「ん…冷たい…。」
何時もより少しだけ赤く火照る頬や、白いと言うよりも 青白い肌は誰が見ても、大丈夫そうにではない。

「大丈夫じゃない、よね?熱、何℃あったの?」
龍はそっとゼフィルの額から手を離し、いつになく真剣な表情で問う。

「えっと、37℃4分。」
「微熱…だね。じゃあとりあえず。」
言葉を一度区切り、イスに座っているゼフィルスをふわりと抱きかかえ 「寝ないとダメだよね。」
と悪戯っぽく笑う。


「え、ちょ、ちょっと龍、待って!自分で歩けるよ!」
龍の腕の中で未だに驚きの真っ最中なゼフィルスは、手足をジタバタと動しもがく。

「ふふっ、元気のいい病人だね。」
そんなゼフィルスの抵抗も空しく、あっけなく寝室の扉は空けられ 龍に抱かれた状態でベットへと運ばれる。

「今日は俺が一日付きっ切りで、ゼフィルスを看病するから。」
「風邪…うつっちゃうよ?」

「いいよ、ゼフィルスと一日中一緒にいられるからね。」

熱の所為で僅かに火照るゼフィルスの頬が更に赤くなったのを見て 龍はクスリと小さく微笑む。


僕の温度は少し
高めの37℃4分



「ゼフィルス、何か食べたいものとかある?」
「うーん…とくにない、かなあ?」
「じゃあ、何かして欲しい事は…?」
「…添い寝して欲しい…。」
「え…?」
「ダメ…かな?」
「え、あぁ…勿論いいよ。」(俺、我慢できるかな…。)
「ありがとう!」









一度はやってみたかった 風邪っぴきネタ。
是非とも四六時中いていただきたいですはぁはぁ。
若干続くかもしれませぬ。 2009.03.24









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