「今日のお天気は、晴れ後雨です。地方によっては、午後から晴れるでしょう。」
ラジオから流れる機械的な女の人の声。

その人の声なんて、聞こえないふりをして…オイラは島を飛び出した。
だって、こんなにサラサラと気持ち良く降る雨は久しぶりだから…!

レインコートも、傘も、長靴も…一切持たないで。





戯。




















――パシャ、パシャ。
水溜りから、水溜りへと飛び移る音は
静かな雨の日によく響いた。


スティーは、水溜りを見つけるたびに、わざと音を立てるようにしては
水溜り目掛けて飛び込んだ。


お陰で、長靴やレインコート、傘さえもさしていなかった彼の服はびしょ濡れ。
靴にいたっては、泥だらけで…元あった色の判別さえ難しいぐらいだ。

「やっぱ、気持ちいなーっ」

そんな事なんて、気にも留めず。
サラサラと気持ちのよい雨の中を 彼はどんどん進んでいく。


やがて、遠くの方に、見覚えのない淡い青色の小さな背中が見えてきた。
その小さな背中は、レインコートも着ず、傘もささず…長靴さえ履いていない。


ただ、大きな水溜りの近くにしゃがみこんでいるだけだった。





――パシャ、パシャリ。

相変わらずスティーは、水溜りに飛び込みながらも
その、小さな背中に近づいて行った。

段々と近づいていくと、パキケの角が見えた
ついに、目の前まで辿りついたスティーは 小さな背中に話しかけた。

「なぁ、お前…何やってんの? 水溜りの中に、何かあるの…?」


話しかけても、一向に口を閉ざしているパキケを不思議に思い、スティーは顔を覗きこんでみた。
パキケの顔は、髪の毛の淡い青色よりも数段真っ青になっている。 翠色の綺麗な瞳が、苦しそうだ…。

「大丈夫か?!」

スティーが心配そうに顔を覗きこむと、パキケは腹部の下の方を手で押さえながら
たどたどしく口を開いた。

「あ、…れ?キミは?」

「オイラは、スティー。そんな事よりお前…どこか具合が悪いのか?」

「スティー…くん?ボクはタリマ…」


タリマがそう言い終わらないうちに、彼の身体はぐらりと力なく倒れそうになった。

「おっと…」
反射的にスティーは彼を受け止める。


「タリマ、だっけ?とりあえず、雨宿りできる場所に移動するからなっ」

「うん…。」

スティーは力なく答えるタリマを抱きかかえ、大きな木の下へと移動した。

「ここならもう、ぬれないぜっ」

木の下は少し湿ってはいたものの、葉のお陰で地面が所々乾いている。
スティーは、出来るだけ湿ってない場所を選び タリマを横にする。

「ありがとう…。」

「おう!」




「雨…止まないかな…。」
少し具合が良くなったのか、上半身だけを起こした状態でタリマがポソリと呟いた。

「雨、嫌いなのか…?」

「うん、ちょっとね… ちょっと古傷が痛くなっちゃうんだ。」
ハハっと、乾いた笑顔で下腹部をさする。

「そういえば…スティーくん、キミの服…びしょびしょだよ?」

「ん、あぁ…! コレはわざと。オイラは雨に濡れるために散歩してたんだ!」

「雨に…濡れるため?」
不思議そうにコトリと首を傾げて、タリマは尋ねた。


「今日は霧みたいな雨だからなーっ シャワーみたいで気持ちいんだ!」

ニコニコと楽しげにスティーは、雨を眺める。
相変わらず雨は、サラサラと降り続けていた。


「あ、そうだ…コレ! 良かったら食べない…?」

タリマは、色とりどりのゼリービーンズ入れたガラス瓶を、スティーに差し出した。
ビンはジャムの使い終わったような、小さくて可愛らしいものだった。

「え…?! いいのか?」

スティーはガラス瓶を受け取ると、物凄い勢いでキャップを空け、ゼリービーンズを口に運ぶ。

「スティーくんは 甘いものが好きなんだねっ」

その様子を見て、思わずタリマは微笑んだ。

「甘い物だけじゃなくって、辛いもんも、大好きだぜ!」

タリマにつられて スティーも微笑む。

いつの間にか二人の間には、他人という壁がなくなり すっかり打ち解けあっていた。




「あ、雨が止んだみたい…」

「本当だ…!」

先ほどまで、サラサラと霧のように振っていた細かい雨は
今はすっかり止んでいた。

大きな木の隙間からの木漏れ日が、二人の顔を照らす。

スティーは手を上げて、眩しそうに目を細めた。
横に目をやると、タリマも全く 同じ行動をしていたので 

二人して、また微笑んだ。



「よしっ 雨も止んだし 歩くか!」

その場で 飛び跳ねるように立ちながら、スティーはタリマに手を差し出す。

「ほら、行こうぜッ!」

「うん。」

タリマはスティーの手をとり、勢い良く立ち上がった。

そして、二人して 雨上がりのキラキラした道を 歩く。
時折、地面の水溜りを見つけては、 大はしゃぎして 盛大に飛び込んだ。

どんどん進んでいくうちに、二手に分かれてある道で 二人は立ち止まる。

「あ、ボク こっから先は右なんだ。」

「オイラは、左っ じゃあココでお別れだな!」


「よかったら…今度、ボクの家に遊びに来ない…? 今日のお礼、ちゃんとしたいし。」

「もちろん…! タリマも、オイラの家に来いよなっ」

「うん。」

それじゃあ、と手を振りつつ 互いに別の道を進んでいく。



「こんな 雨の日だったら、オイラは大歓迎なんだけどな。」




独り言のように囁くと、スティーは茜色の空の下、全力で駆け抜けた。










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イズル様宅のタリマくんと
うちの子、スティーとの小説です。

イズル様の日記に、“雨の日に古傷が痛む”
と言う、なんともおいしい設定があったので
勝手に、使わせてもらいました…!

タリマちゃんが可愛らしいので、表現できてるかどうか不安ですorz
イヅル様!勝手に拉致って申し訳ないです><
また、拉致ります…!←

2008.6.8.どくきのこ















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