一度気になると、気になって 気になって…どうしても知りたくなってしまうわけで―――。
The secret of the eye bandage眼帯の秘密。








「ねぇ、スティー…キミ、ギムレットの眼帯の下…見たことある?」

調度昼下がりの午後の時間、ボクは幼馴染であるスティーの家に遊びに来ていた。


客用に用意されたアッサムティーを 口に含みながら
最近なんとなく気になっていた事を、彼に尋ねてみた。

「へ…?いきなりどうしたんだよ、シィー?」

質問の内容があまりにも唐突だったためか、スティーは
食べていたクッキーを、ポトリと地面に落としてしまった。

「あーぁ…何してるの? まったく…。」

そう言いながら、ボクは仕方なく彼の落としたクッキーを拾い
遠くにあるゴミ箱へと投げ捨てた。

クッキーは弧状の円を描き、見事にゴミ箱へと入っていった。

「わ、わりぃ…だってシィーが突然、変な事聞いてくるからだろ?」
彼はゴミ箱に投げ捨てられたクッキーを見つめながら
ボソボソと文句を言っている。


「それよか さっきの質問のコトなんだけど…オイラもギムの眼帯の下は、見たことねぇな…」

再びクッキーを口の中に放り込みながら、スティーはボクの問いに答えてくれた。

「そっか…やっぱりキミも、見たことないんだ…。」

残念そうに下を向いてため息を吐くボクに、今度はスティーが
「そういえば…どうしてシィーはオイラにそんな事聞いてきたんだ?」

と…聞いてきた。
ボクは彼に、事のきっかけを 鮮明に話した。









―――そう、あれは2日ほど前の出来事だった。


たまたまボクは、ギムレットに用事があったため 彼女の家に着ていた。
けれども、家にギムレットの姿は見当たらなかった。

「ちょっと早く、来すぎちゃったかな…?」

家の時計はまだ、約束の時間よりも20分前を指していた。


暫くしたら来るだろうと思い、ボクは家主のいない家で待つことにした。


「あ…れ?」

待っている間、その場に突っ立っているのもなんだし
イスにでも座っていようと歩き出した、その時だった。


地面に何かが落ちているのを発見した。

「これって…もしかして、ギムレットの眼帯?」


落ちているものを手に取って見てみると、それは彼女がいつも片目にしているハートの形をした眼帯だった。

思えば、この眼帯を近くで見るのは初めてだ。

ギムレットが、眼帯を外したところを一度も見たことがないから…当然のことだろうけど…。



「ん…待てよ? 今、この眼帯がココに落ちていたってことは…ギムレットは眼帯をつけていないのかな…?」

そんな事を考えている時だった。
遠くから、吠えるような騒がしい声が聞こえるのに気がついた。

「あ゛ーーーっ! それ、オレの眼帯ッ!」



…予想はしていたけど…やっぱり、この騒がしい声は
ボクが待っていた人…そしてこの眼帯の持ち主のギムレットだった。


ギムレットは、いつも眼帯をしている方の目を 手で覆って隠しながら 走ってコチラへやってくると
乱暴にボクの手から、奪い取るようにして眼帯を取り上げた。


「探してたんだよ…! よかった…見つかって。」

彼女は心底安堵したような声を出すと、ボクに見られないように背を向けて眼帯をつける。

「ねぇ…キミの眼帯の下…どうなってるの?」


回りくどく聞くのは、ボクの性には合わないから 直球で彼女に尋ねた。


「え、あ…それは…悪りぃ、オレにも秘密ってのがあるんだ…。」

「そっか…、分かったよ。」



と、その場では納得してみたものの…本人が秘密にすると、ますます気になって仕方がない。


だからボクはこうして、彼女の秘密を誰かが知ってないのか聞きまわっているのだ。







「……そう言われてみれば…オイラも気になるかも。」
一通りボクが話し終わるころには、山のようにあったクッキーは 全てスティーの腹の中に納まっていた。


「でしょ? はぁー…スティーが知らないって事は、他を当ってみるしかなさそうだね。」



「その事でしたら、私…知っていますよ。」

背後から、イキナリ聞き覚えのある声がした。
振り向くと、いつの間に居たのだろうか…スティーの妹のクリスティアが ニコニコと笑みを浮かべて立っていた。


「う、わ… クリス! 居るなら居るって言えよ!」

「うふふ、ごめんね?」

彼女は、どこか楽しげに笑うと スティーの向かい側のイスに腰を下ろした。


「さっきの話…本当?」

ボクが尋ねると、クリスティアは勢い良く首を縦に振る。


「えぇ、本当ですよ。本人から聞きました!」

本人から…やはり、女の子同士だし 歳も同じなクリスティアには ギムレットも話やすかったのだろう。



「あの、眼帯に隠された…目は…。」

彼女が声を潜めて深刻そうに言うものだから、ボクとスティーは思わず ゴクリと固唾を飲む。




「アイランド丸ごと一つ破壊できる…それはそれは、とても恐ろしい光線が発射出来るのです!」
クリスティアは、人差し指を立て 得意げに言う。



「は…?!」
一瞬、彼女の言ってる意味がよく分からなかった…
いやっ そもそも、目から光線を発射するって…。



「す、すげー…目からビーム!ギムってそんな事が出来るのか!」

一際、明るい声がボクの隣から聞こえた。

恐る恐る横に居るスティーに目をやると、コレでもか と言うぐらいに目をキラキラと瞬かせている。

まさか…まさか、信じるとは思ってもいなかったけど…。




その、まさかだった。
「ちょっと、スティー! もしかして…信じてるわけないよね?」

「へ…?違うのか?」

「…やっぱり…。」


キョトンとした彼の顔には、“疑う”と言う言葉がまるでないようだった。


「普通、常識的に考えても…“目からビーム”だなんて、誰も信じないよ。」

「でもよー 本人が言ってたんだぜ? だよな!クリス。」
スティーは、向かいに座っていた クリスティアに問いかけた。

「はい、そうですわ! 確かに私…この耳で聞きましたもの。」
自信たっぷりに言う彼女を見て、ボクは気が遠くなって行くのを感じた。

本当にこの兄妹は、変なところで良く似ている…
詐欺とかあったら 間単に引っかかってしまうだろう。



「ほれみろっ やっぱり、ギムは目からビームが出せるんだよっ。」

「だから…」
呆れながらも、スティーの言葉を否定しようと出したボクの声は…途中で途切れた。

何故なら――



「違うに決まってるだろ。嘘だ、嘘。」

と言う声に、邪魔されたからだった。

振り向くと、銀色のユキムグリ…ルヴィアンがそこに立っていた。
手には、買い物袋をぶら下げている。



「おあっ! ルヴィ、いつの間に!」

「お前が買出し行って来いって言ったんだろ、ほら…言われてた菓子 コレだろ?」

ルヴィアンは、買い物袋の中から徐に棒つきの飴を取り出すと スティーに手渡した。

「そうそうコレコレ! 新作の飴、ありがとう!」


スティーはルヴィアンに無邪気に微笑むと、乱雑に飴の包み紙を破り捨て 露になった飴を口に含んだ。
先ほどクッキーを完食したばかりなのに…彼の食欲には呆れるのも通り越して、尊敬してしまう。



「ルヴィアンさん。先ほど兄貴が言ったこと…“嘘”と仰っていましたが…?」

クリスティアが不思議そうにルヴィアンに問う。
いや、"不思議そうに"と言うこと自体がおかしいと思うんだけど…。


「そりゃあ…俺があの眼帯の下の本当の姿を知ってるからだ。」

「以外だねー、ルヴィがギムレットの事知ってるなんて。」
嫌味ったらしく言うボクをよそに、ルヴィアンは話を進める。

「あの眼帯の下にはな……。」


クリスティア同様、彼もまた…深刻そうな顔をしている。 イヤな予感がした…このパターンはもしかして―――――。

「小さなブラックホールがあるんだ…。」




嗚呼、今日のボクはどこまで冴えているのだろう。
予想的中だ…。


「え、そうなのですか?」
「ビームじゃなくて、ブラックホールなのかっ」

クリスティアとスティーが 何の疑いもなく、彼の言う言葉を信じきっている。
……こんな光景に流石のボクも、頭が痛くなってきた。

「そうだ、本人から聞いたからな。」


何故か誇らしげにしているルヴィアンを見て
さらに、頭が痛くなってきた…。
呆れてため息も出ないと言うのは、こういうことだろう。

大体、本人から聞いたって…ギムレットがそんな事言うわけないじゃないか。




「ってッ! オイ、ちょっと待てよ!!」
ボクが一人、ぐるぐると思考してる中 怒鳴るような声と友に、ギムレットが現れた。

ボク以外の3人も、驚いて彼女の登場に目を丸くしている。

「さっきから聞いてりゃ…光線だの、ブラックホールだの…好き勝手言いやがって!オレは一言も言ってない!」
ギムレットは怒りに肩を震わせながら、こちらにやって来る。

そして、乱暴に自分の片目へと手を伸ばすし
あのハートの形をした眼帯を 外した。


「これで満足だろ!」



彼女が眼帯を外した瞬間
スティーの家はボク以外の笑い声が響いていた。


「あは、あははははっ!」


隠された左目から現れたのは、片目と何ら変わりない薄緑の目。

違っていたのは…眼帯の形ソックリの日焼けの後。
海上生活が多い彼女の事だ…恐らく、日焼けをし
眼帯で隠されている肌だけが、焼けなかったのだろう…。



「…だから、イヤだったんだよ!」

素早く眼帯を戻しながら、ギムレットがボソリと呟く。


そんな中、ただ一人笑ってないボクは その場に呆然と突っ立っていた。
理由はただひとつ…眼帯の下の秘密が、あまりにも下らなかったからだ。



「はぁ……。」


もう二度と…こういった事には首を突っ込まないでおこう…。
そう、心に誓っいながら…ボクはスティーの家から
コッソリと自分の家に帰った。















――――――*
初の我が子総出動話。
アホ丸出しでスミマセ…!
シリアスのカケラもない子達です。

最後の方は、力尽きて適当になってしまいました。
うー…精進します。
次回は、甘い話かシリアスで行こうかと…。
2008.05.11.どくきのこ