「きゃーーッ!」


それは、一つの叫び声から始まった小さな春の前触れ―――。




「桃咲くキセツの風物語」







季節は3月の上旬、桃の花がチラホラと蕾を膨らませは、開花を今か今かと待ち望んでいた。

まだ、肌寒い風がふいてる中ユキムグリのルヴィアンはGLLの餌屋から、買い物を終えた所だった。

「…買い物も終わったし、そろそろ島に戻って昼飯の準備でもするかな…。」


独り言のようにポツリとルヴィアンは呟くと、島に向かって歩き出した。


そんな時、たまたま通りかかった茂みの中から 女の子の甲高い叫び声が聞こえたのだ。







「おい、大丈夫か?!」

ルヴィアンは勢い良く茂みの中に飛び込んだ。

どうやら茂みは怪物の森に通じているようで、進むたびに薄暗くなっていく。



「あ、…!」


彼がようやく茂みから抜け出すと、小さなワングの少女と目が合った。

恐らく、先ほどの叫び声はこの子のものだろう。
彼女の目の前には、今にも飛び掛りそうなジョロウグモが一匹…。


「こ、…こないで…っ」

少女は後ずさりしながら、目の前にいるモンスターと距離を置こうとしたが
彼女が一歩下がれば 同じく一歩ずつモンスターは距離を縮めていく。

そして、次の瞬間…
奇声をあげて、モンスターが少女に飛び掛った。


もうダメだ…彼女は大きな瞳に涙を浮かべながら、覚悟を決め 目をギュッっと瞑った。
その時、不意に彼女の体が宙を浮かぶように、ふわりと浮いた



少女がおそるおそる、その目を明けると さきほど居たユキムグリのルヴィアンが
彼女を抱え込むようにして、抱き上げていた。


彼は少女を抱きかかえると、怪物の森から出るために全速力で走った。

やがて森から抜け出し、日の当る場所に出た。



「お前…大丈夫か?」

ルヴィアンは、助け出した少女を地面に降ろした。

大体、10〜11歳ぐらいだろう、顔つきは幼くて赤くまん丸とした大きな目が サラサラとした、薄黄色の髪から覗いている。


「う、ん…大丈夫…っ!」

そういいながらも、彼女の膝からは真っ赤な鮮血が流れている。


「出血してるじゃないかッ!」

それに気がついたルヴィアンは、慌てて持っていたハンカチで止血をやりはじめた。

「ココじゃちゃんとした手当てが出来ないな…俺の島まで行くぞ、歩けるか?」

「あ、うん…」



そういうと、二人とも島に向かってとぼとぼと歩き出した。







****





「よっし…もう大丈夫だろう。」


「…ありがとう。」

島につくと、早速ルヴィアンは彼女の手当てをした。
幸い、血は出ていたものの大した怪我ではなかったようだ。


「えっと…名前…。」
少女はモジモジと恥ずかしそうに、名前を尋ねる。


「ん…、俺か?俺は、ルヴィアンだ。…お前は?」

「まこ…まこすけっ!」

まこすけが自分の名前を言い終えた、瞬間…“グゥ”ーと彼女から腹の虫の声が聞こえた。


「まこ…おなか減った。」

そういうが否や、まこすけは ルヴィアンの島にある花を無造作に 口の中に放りこんだ。


「わ、…!ちょっと…お前、…それは 食べ物じゃないんだけど…。」

「お花食べるの、好きだから…平気だよ。」

と…次から、次へと 島にある花を口に放りこむ まこすけ。


「分かった…分かったからっ腹減ってるんなら、昼飯作る…だからそれ以上、俺の育てた野菜の花を食うのは…やめてくれ。」

たまりかねたルヴィアンは 声を荒げ、キッチンに移動すると 昼食の準備を始めた。






「ほら…」


暫くして、キッチンからイイ匂いと友に、恐ろしくエプロン姿の似合わないルヴィアンが出てきた。

テーブルには、ちょこんとまこすけが座っている。


「わーっ オムライスだ…!まこ、大好きっ!」

顔をほころばせながら、まこすけは夢中でオムライスを食べる。
お陰で、彼女の口の周りはケチャップだらけ。



「ったく…ケチャップついてるぞ。」

ティッシュで、まこすけの口を拭きながらも、ルヴィアンはブツブツと小言をこぼす。
とは言ったものの、彼も内心小さな妹が出来たみたいで、嬉しいのだろう。

心なしから、顔が穏やかだ。




「ごちそうー、さま!」

彼女はルヴィアンが作ったオムライスを、全部食べ終えると 満足そうに微笑んだ。


「あ…そろそろ帰らないと。」

島の時計を見るなり、まこすけは慌てて立ち上がった。


「ん、そうか…また昼飯でも喰いに来いよ。」

「うん、今日は本当にありがとう、あ…そうだ、ルヴィアン…ちょっとだけ目を瞑って?」

「え、…あーっと…こうか?」

まこすけに、言われたようにルヴィアンは目を瞑った。


「うん…あと、すこし屈んで!」

「……注文が多いな…分かったよ。」

一体、何をされるのだろうか?と困惑を抱きながらも、彼はまこすけの指示に大人しく従う。




―――ちゅっ


ふと、ルヴィアンの額にマシュマロのような 柔らかい感触がした。

彼が驚いて、目を開けるとまこすけが、ルヴィアンの額にキスをしていたのだ。



「ば、バカッ お前…!何やってるんだよ?!!」

当然、驚いたルヴィアンは顔は真っ赤だった。



「照れてるっ! ルヴィアン照れてるっ! それじゃまこ、家に帰るね。」

クスクスと笑いながらまこすけは、あっと言う間に帰っていった。




「ったく…最近の餓鬼ときたら…。」


春の前触れの冷たい風が、少しだけ咲いたサヤサヤと桃の花を揺らす。


「はぁ…桃の花まで俺のことを 笑ってるみたいだ…。」

まだ、火照りのとれない顔で…一人ボソリとルヴィアンは呟いた。










後書
――――――――――――――*
絵師のぴぃ様宅 まこすけちゃんと絡ませて頂きました。
まこすけちゃん、かわーいーい とニヤニヤしながら書いたら…

いつのまにか、妄想が爆発していました。
そして、一番の突っ込みどころ…タイトル(獏
思いつかなかったんです(汗

また、機会がありましたら 他の住人とも絡んでやってくださいっ
2008.04.20 ドクキノコ